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映画<鷹見明彦>

画家と庭師とカンパーニュ

ある画家が鎌や小さなスコップを描くようになった理由

 パリの画家(ダニエル・オートゥイユ)が、空き家になっていた生まれ故郷の屋敷へ戻ってきた。荒れた庭の手入れして菜園を作る庭師を求人する。やってきた庭師(ジャン=ピエール・ダルサン)は、40年前、小学校でケーキをロウソクに見せかけた爆竹で爆破する悪戯をして、ともに退学になった幼なじみの旧友だった。薬剤師にしたいという親の希望に沿うことなくパリの美術学校に進んで画家になった男と、中学を出てすぐに国営鉄道にはいって長く鉄道員の仕事をつづけた後に田舎に帰って庭師になった男ー。まったく違った人生を歩んできた2人だったが、再会した彼らは、すぐにうち解け合って、あだ名で呼び合うようになる。

 夏から秋にむかう季節の光のなか、ゆるやかに流れる時間とともに菜園づくりと絵の制作の合間の語らいに、おたがいの人生が照らし出される。時をへだてて復活した友情はそれぞれの欠落を補いあうように育っていく。モデルとの浮気が原因で美術書の出版社を経営する妻と別居、離婚話の最中にある画家。庭師にも娘婿の失業という悩みがあった。パリの画廊のスノッブなオープニング・パーティ、妻との話し合い、同年輩の婚約者を連れてやってきた一人娘との親子喧嘩・・・。季節の巡りとともに庭仕事と同じように、何十年も毎年、決まった時期に長年連れ添った妻とニースの同じ宿にバカンスへ行くといった庭師の生き方は、都会暮らしに疲れた男の救いとなって、また庭師のほうも若いころに行って以来、何十年ぶりに画家の案内でパリを訪れ、ルーヴル観光をしたりする。

 画家が生家に戻るきっかけになったのは、薬局を営んでいた父が死んで、間もなく母も逝き、葬儀後に屋敷を片づけていたら、父が描いた見事な庭のスケッチを見つけたことだった。若いころに自分と同じように絵心があって、画家を夢見ながら祖父にはばまれて家業を継いだ父だったが、その絵心は消えていなかったことを知る。
バルビゾン派の画家たちと友だちだったので森のなかで歴史画を描いたジェロームのことなどを引き合いに出して気どっていた画家も、故郷の風光と友情に癒されながら、それまでの抽象的な画風をこえた新しい絵を描きはじめる。しかし友情の刻は、季節の輝きのように限りがあった。病に倒れた庭師は、いっしょに川釣りをする約束を果たした後に帰らぬ人になる。パリでの新作展、人生の午後にかけがえのない親友をえた画家が、友の死をこえて描いたのは、友と語り、友と生きた時間のなかにあった日用品や道具などだった。

 原作は、アンリ・クエコのベストセラー、『私の庭師との会話』。「カンパーニュ」は、フランス語で田舎もしくは田舎風。登場人物もロケーションもきわめて限られたある季節の物語・・・。エリック・ロメールやパトリス・ルコントもそうだが、何気ない会話の演出と俳優たちの演技の巧みさは、フランス映画のお家芸の健在を伝える。住まいや園芸、自然のディテールを人情の機微とともにやさしく撮す映像が美しい。(本サイトのCINEMAバック・ナンバーでは、ベルトラン・タルヴェルニエの『田舎の日曜日』ジャック・リヴェット『美しき諍(いさか)い女』などに似た風合いがある)。

 監督のジャン・ベッケルは、その名が示すように「穴」「肉体の冠」「モンパルナスの灯」の名匠ジャック・ベッケルの2世である。ジャック・ベッケルが画家ルノワールの息子のジャン・ルノワール監督の助監督だったことなどを、この映画のストーリーに重ねてみると、フランス映画の歴史の流れが感じられる。

監督:ジャン・ベッケル、キャスト:ダニエル・オートゥイユ、ジャン=ピエール・ダルサン、ファニー・コットソンほか

2008年セザール賞最優秀男優賞ノミネート

2007年フランス/カラー/109分
販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/¥ 4,980(税込)

(2009/6/17 update)

 
 
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